児童相談所バッシングは子どもを救うか① ~忘れられた教訓

例によって、虐待報道に反応して児童相談所(以下「児相」という。)の対応への批判が起こっているようです。

 

 

その批判に応えるように、厚生労働省において、個別事例に対しては異例ともいえる死亡事例の検証が行われ、その結果が公表されました。

 

厚生労働省HP「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000173329_00002.html

 

また、今回の事例に関わった2自治体も、互いの検証委員会・検証部会が合同で検証を実施するなど、異例と言える対応を行い、双方の自治体から検証報告書が公表されています。

 

香川県児童虐待死亡事例等検証委員会検証報告書の公表について

 

児童虐待死亡ゼロを目指した支援のあり方について|東京都

 

これらの検証結果でも、やはり今回の事例に関わった児相の対応、特にもともと住んでいた方の自治体の児相や関係機関の対応の問題点が多く指摘され、改善を求められているようです。

 

日本ではこれまでも、子ども虐待による死亡事例などがセンセーショナルに報道されるたびに児相へのバッシングが繰り広げられ、その声に応じて子ども虐待対策を見直すことが繰り返されてきました。

そのため、制度の改正や新たな通知の発出は、児相が家庭に介入し、子どもを保護する機能を強化する内容のものが多くなっています。

 

このような批判や制度改正が、児童虐待事案に取り組む児相の姿勢を改め、子どもの命を救ってきたという側面は当然あるでしょう。

しかし、今後より多くの子どもたちを救っていこうと思うのであれば、これまで依拠してきた方法論が最善だったのか、省みる必要があります。

 

ここで一つ、日本の児童虐待対策に対して、アメリカのパイオニアから発せられた問題提起をご紹介します。

 

現在の日本子ども虐待防止学会の前身である、日本子ども虐待防止研究会が1994年に行った第一回大会の国際シンポジウムで、当時の国際虐待防止学会長のR.D.クルーグマン教授が「日本は米国型か欧州型か、まだ選ぶことができる」という趣旨の“警告”を発していました*1

 

この警告は、虐待者の取り締まりを重視して通報件数が増大した結果、その調査に資源を割かれて虐待そのものへの対応が遅れてしまったアメリカやイギリスと、専門職を育てて家庭への支援を中心に据えてきた欧州各国の採った手法のどちらを選ぶのか?ということを意味します。

 

クルーグマン教授は、1960年代にアメリカで子どもの虐待を「発見」した、ヘンリー・ケンプ教授の弟子にあたる方で、1988年から1991年までの間、「子どもの虐待とネグレクトに関するアメリカ諮問委員会(U.S. Advisory Board of Child Abuse and Neglect)」の長を務めていました。

いわば、アメリカの子ども虐待対策の「失敗」を間近で見てきた経験から、まだ対策が始まったばかりの当時の日本に対してアドバイスをしたのでしょう。

 

 

それから25年ほどが経ち、現在の日本で行われていることを見たとき、果たしてその警告がどれほど活かされてきたでしょうか。

むしろ、アメリカ・イギリスの歩んできた“茨の道”を、順調に踏破してきているように思えてなりません。

 

可愛らしい子どもが亡くなった事件に対して憤るのは、人としてある程度正常な反応だと思います。

そういった市井の人達の反応が、多くの子どもたちの死や、過去のたくさんの「失敗」から積み上げられてきた教訓を無駄にしないことを願うばかりであります。

 

子ども虐待 介入と支援のはざまで

子ども虐待 介入と支援のはざまで

 

 

*1:小林、2007「子どもをケアし親を支援する社会の構築に向けて」、小林・松本編『子ども虐待 介入とケアのはざまで』、明石書店