「児童虐待が増加している」という話について
子ども虐待の論文や書籍等を読んでいると、「児童虐待件数が増加しており…」という枕詞に出会うことがままあります。
結論から言ってしまうと、子どもへの虐待が増えているのか、減っているのか、それとも変化していないのかは分かりません。
これが現在の段階で最も正確な表現になるかと思います。
もしも虐待の件数について、なにか断言して語っている人がいた場合、その話は少し気を付けて聞く必要があります。
たしかに 児童相談所の虐待相談対応件数は、集計開始(1990年度)の1,011件から100倍を超える103,286件(2015年度)*1となりましたが、実際に虐待が行われている件数(実数)が増えたかどうかは、専門家の間でも意見が分かれています。
子どもへの虐待が社会問題として認識されるようになり、これまでは「教育」の一環として許容されてきた行為が、現在では虐待と認識されて通告されるようになったと考えることもできるからです 。
(稀ですが、実数としては減っているのではないか?という研究者もいます。虐待が発見される割合は増えたのに、最も隠ぺいが困難な死亡ケース(嬰児殺)がそれほど増加していないためという論旨)*2
ですが、虐待の実数が増えたと断言し、その根拠を「核家族化」に求める専門家が少なからずいます。実数の増減は正直分かりませんが、核家族化が原因だという意見は明らかに間違いだと断言できます。
なぜなら日本では、子ども(児童)のいる核家族世帯は増加していないからです 。
下記の表を見てみると、確かに、「夫婦と未婚の子のみの世帯」と「ひとり親と未婚の子のみの世帯」の合計は、一人親世帯の増加によって微増してはいます。*3
ですが、この「未婚の子」の指す内容が大事です。次に以下の図をご覧ください。 *4
このように、18歳未満の児童がいる世帯に限って見ると、昭和から平成にかけて「児童のいる核家族世帯」の数が減少し、平成7年から横ばいになっているのが分かります。
また、世帯内の平均児童数は減少し続けていますので、核家族における児童の数を簡単に計算すると、
平成7年:9,419(世帯)×1.78(人)≒16,766(人)
平成27年:9,556(世帯)×1.69(人)≒16,150(人)
と微減しています。
「子どものいる核家族」が増えていないことには、核家族化が子ども虐待の件数が増加している原因にはなりえません。
子どもに関わる分野では、学術論文でもそういった思い込みレベルの言説が散見されますので、リテラシーを働かせ、一つ一つ事実を確認する姿勢が求められます。
もっと言ってしまうと、子どもの虐待に関して、「実数が増えている」とか、もしくは何の留保もなくただ「急増している」と言い切ってしまう論者の主張は、話半分程度にきくことをオススメします。
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*1:
平成27年度福祉行政報告例の概況|厚生労働省(2017年2月19日アクセス)
*2:内田良(2009):「「虐待」は増加する―攻撃・放置減少時代における増加説の台頭とその陥穽」『「児童虐待」へのまなざし―社会現象はどう語られるのか』,pp.61-91
*3:厚生労働省:「平成27年度国民生活基礎調査結果の概況」
調査の概要|厚生労働省(2017年2月19日アクセス)
*4:同上