虐待加害者は母親が多い?
子どもへの虐待は、誰が行っているのでしょうか?
タイトルからなんとなく想像がつくかもしれませんが確認していきましょう。
最新の数値で、子ども虐待の主な加害者の割合はそれぞれ、実母:52.4%、実父:34.5%、実父以外の父:6.3%、実母以外の母:0.8%、その他:6.7%となっており、実母が最も多くなっています(2014年度) 。*1
おそらく予想通りの結果だったのではないでしょうか。
では、この結果についてどのように感じるでしょうか。「自分の腹を痛めて産んだ子にそんな酷いことをするなんて!鬼め!」と思うでしょうか。
虐待加害者は、統計を取り始めてから一貫して実母が最多となっていました。しかし、それは最も長い時間子どもと接するのが実母である場合が多いためだと言われています。
そのため、「子どもと一緒にいる時間当たりの虐待件数」といった統計をとることができるようになったとしたら、短絡的に実母が一番虐待するとは言えないかもしれません 。
少し前のデータになってしまいますが、男女が一週間にかける育児時間のグラフになります。*2
もちろん、各家庭によって誰が主に育児をしているか等、事情は変わってくるため、あくまで仮説となりますが、
社会全体としてみた場合に、子どもと関わる時間が少ない割に、男性(父親)が虐待の加害者になる割合が大きいんじゃないか、と考えることもできるのではないでしょうか。
加えて、実父以外の父については集計開始以来、一貫して6.5%程度を維持しています。相談対応件数が急速に増加しているので、件数でいうとここ5年間では約2,000件の増加です。
日本における「実父母以外の養親と子どもで構成される世帯」の数については統計が存在しておらず、確実なことは言えませんが、おそらく国内のステップファミリーの世帯数からすると、割合としてはかなり多いのではないか、と私は考えています。
初めの表から、もう一つ読み取れることがあります。虐待相談対応件数の急増と、それにリンクして実父が加害者である割合が急激に高くなっていることです。
件数の急激な増加については、別の記事で触れますが、平成24年度(2012年度)から警察が面前DVケースを児童相談所に通告することを徹底するようになったからです。
家庭内でDVがあった場合、たとえ子ども自身が暴力を受けていなかったとしても、他の家族が暴力を受けている環境にいることは子どもにとってとてつもないストレスとなるため、心理的虐待として扱われます。
集計以来、一貫して実母60%、実父約25~30%という割合で推移していたのですが、この面前DVケースが増加したことにより、平成26年度(2014年度)では実母50%、実父35%というところまで来ています。
この数値の推移について、(これもまた私の仮説を含みますが、)長らく最終的な行為者としての母親しか見えていなかった状態から、その根本的な原因にまでアプローチできるようになってきた過程にあるのではないかと考えています。
極端な話、「父親が外で女遊びばかりして家庭を顧みず、あげく家を出てどこぞの女と同棲を始めてしまった。泥沼の裁判を経て離婚したのに結局養育費は一銭も支払われず、家計を支えようとトリプルワークに勤しんだ結果、仕事や育児の過労・ストレスから子どもを叩いてしまった。」
というケースがあった場合、これは母親による身体的虐待となります。
子どもを叩いたのは母親だからです。(酷い話ですね)
つまり、子どもへの虐待をはたらいた、その時の加害者は誰か?ということしか問題とされてこなかったし、今もそのような集計がされているのです。
同じように、日常的にDVがありながらもそれが周囲に露呈せず、そのストレスのはけ口として母親が子どもを叩いてしまった、というケースがあった場合、以前は母親の身体的虐待とされていたものと思われます。
DV被害は外からはなかなか見えず、加害者も周囲からは立派な人物として捉えられることも多いと言われています。
しかし、DVケースの通告の増加によって、実父を加害者とする相談対応件数が増えていることを考えると、近年では上記のようなケースの何%かは、そのストレス源である父親が加害者であるとして正しく通告されるようになった可能性があります。
実母の件数も同時に伸びてはいるので、これもあくまでも可能性の話として受け止めてください。
ただ、人をして虐待に至らしめるほどのストレス源が、虐待の相談対応件数に直接反映される、ということは、とても大切でとても画期的なことです。
ここからさらに、虐待の基になるストレス源について、深く掘り下げていこうかと思いましたが、疲れたのでこの辺りにします。
*1:
平成26年度 福祉行政報告例の概況|厚生労働省(2017年2月19日アクセス)
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/pdf/gaiyou2.pdf(2017年2月19日アクセス)